Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【2】-西村博之とジム・ワトキンスの2ちゃんねる骨肉の争い/下
清義明 フリーライター

2006年、西村氏は多発する民事裁判には出廷しないことも多くなり、メディアに姿を現さずに雲隠れするようになっていた。しかし一方ではネットには時折現れて「年収は日本の人口より少し多いくらい」というようなことをうそぶきながら、続発する民事裁判にも「(裁判に)勝とうが負けようが、(賠償金を)払わなければ一緒」と吹聴してまわっていた(注1)。
「『2ちゃんねるはアメリカのサーバーでアメリカのサービスです』と言い張った途端、日本の法律がなにも通用しない」(『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』西村博之、扶桑社)というのが、2ちゃんねるのビジネスのコアコンピタンスということも豪語していた。これはジム氏が自らてがけていた無修正のポルノサイトが海外にあるから日本では罰せられないというビジネスモデルと同じ理屈だ。ようするに脱法ビジネスなのである。
西村氏の自宅に家宅捜索
そんな西村氏だが、2008年1月に突然「2ちゃんねるを手放すことにした」と表明した。シンガポールの会社であるパケットモンスター社に2ちゃんねるを譲渡するというのだ。これは様々な憶測を呼び、ネットでははやくから会社の実態に疑問がささやかれていた。
2011年3月27日付の読売新聞は、このパケットモンスター社が経営実態のないペーパーカンパニーだったとの現地調査を伝えている。それによれば、同社の資本金は1ドル。本店登記された場所は会社設立代行会社の住所で、取締役も取締役代行をビジネスにしている人だったとのことだ。典型的なタックスヘイブンを利用した節税対策の手法である。
同紙によるとパケットモンスター社の取締役と登記されている人は「頼まれて役員になっただけで、2ちゃんねるという掲示板も知らない」と証言し、日本から手紙などが来ても日本語が読めないため放置しているとも語った。同社の事務所とされる住所にいた人に聞くと、あっさりと「バーチャルオフィスだよ」と笑っていたそうだ。またジム氏もパケットモンスター社は社員がいないペーパーカンパニーだったと、2ちゃんねる乗っ取り裁判の中で証言している。
当時、訴訟を多数抱える一方で、未来検索ブラジル社を通じて出資するニワンゴ社が、ニコニコ動画などのビジネスで軌道にのってきたことも、このペーパーカンパニー設立の背景にあるのだろう。
数々の訴訟を海外に会社があると言い逃れて回避するためと、節税のビジネス上のメリットを両立させるために、2ちゃんねるの実態が海外にあるかのようにみせかけようとしたのだろう。この時に2ちゃんねるのドメインもパケットモンスター社に移転されている。
2011年11月24日から2012年12月3日にかけて、麻薬特例法違反事件と遠隔操作ウイルス事件と関連する書き込みが2ちゃんねるにあったとの理由で、西村氏の自宅と未来検索ブラジル社が4度にわたり家宅捜索された。 以下の家宅捜索とそれから明らかになった事実は、2013年に家宅捜索が違法として未来検索ブラジル社とその子会社でガジェット通信を運営する東京産業新聞社が起こした民事裁判の記録をもとにしている。
最初の家宅捜索は、麻薬取引が2ちゃんねるに公然と投稿されていたにも関わらず削除義務を果たさなかったというものだ。書き込みを被害者などの申し立てを無視して放置するのは、2ちゃんねるのいつものことだ。警察は違法な書き込みが蔓延していたことを西村氏が知りながら、削除すれば犯行を防げたものを放置したと西村氏の責任を問うた。警察は西村氏の関係先7カ所に削除要請をしたが無視され、これが幇助行為にあたるとしたのだ。この件は結果的には2012年12月に書類送検されながらも、翌年3月に不起訴になった。
後者は数々の冤罪被害者を生み出し、後に真犯人の男性会社員が逮捕のあとも二転三転しながら結局有罪になった事件だ。この事件については警察の威信をかけ捜査が行わたれた。これまで警察の捜査に非協力的だった西村氏が調査に協力しなかったため、西村氏の自宅等の関係先と未来検索ブラジル社に家宅捜索が入った。

現在も西村氏が管理人をつとめる「2ch.sc」のトップ画面
2ちゃんビジネスの転機
この二つの事件に関する家宅捜索と西村氏の起訴は、2ちゃんねるのビジネスにとって大きなポイントとなった。理由は二つ。
西村氏のみならず未来検索ブラジル社も2ちゃんねるの関係会社とみなされたということだ。
未来検索ブラジル社は、2ちゃんねるの管理責任と同社は全く関係ないと主張し、違法な捜査として、2013年に国家賠償請求を民事裁判に訴えた。未来検索ブラジル社の子会社の東京産業新聞社のウェブサイト『ガジェット通信』では、その裁判の訴状を「『2ちゃんねる』捜査に国家賠償請求訴訟」と題して掲載した(注2)。この裁判は2016年に東京地方裁判所にて判決が出た。未来検索ブラジル社の敗訴である。未来検索ブラジル社は東京高裁と最高裁判所にそれぞれ上告したがいずれも請求は棄却された。もちろん未来検索ブラジル社はそのことを伝えていない。

ジム・ワトキンス氏が運営する「5ちゃんねる」の一画面
未来検索ブラジル社等による国家賠償請求の裁判記録によれば、数々の削除要請や出頭要請、捜査協力などに応じない西村氏の2ちゃんねるに対して、警察はその書き込みデータを押収するために、西村氏と未来検索ブラジル社を家宅捜索し証拠となるパソコンやハードディスクなどを押収した。
これは未来検索ブラジル社が西村氏と協業しているばかりではなく、2ちゃんねると一体化して「深く関与」(未来検索ブラジル社等による国家賠償請求の裁判記録より)しているとのみなしたからだ。
そして二つめには、これまで西村氏が主張していたビジネススキーム、つまり「サーバーが海外にあれば、日本の法律は通用しない」という図式が崩壊したことだ。
この裁判で警察側は、2ちゃんねるはパケットモンスター社に譲渡したとの西村氏の主張について、同社は「資金トンネル会社」「資金隠匿プール会社」(裁判記録より)であり、2ちゃんねる経営の実態を隠匿するための存在との疑いがあるとしている。
なお、当時の未来検索ブラジル社の社長であった深水英一郎氏は、2ちゃんねるの収益を配分していた取引先とされるはずのパケットモンスター社の連絡先すら社長である深水氏も知らず、その取引の契約書も存在せず、その送金指示も西村氏が行っていたと警察に語っていた模様だ。つまり2ちゃんねるの実態は、パケットモンスター社にはないと警察が早くもこの時点で確信していたということだ。
これは2ちゃんねるでおきたことにたいして、西村氏に対しての管理責任が問えると警察が判断したことである。たとえ海外にドメインやサーバーがあり、運営元とされている会社も海外であろうと、経営実態が日本にあるならば罪に問えるという判断だ。これが原因だろうか、西村氏は2013年2月にニワンゴ社の取締役を辞任している。
それからほどなくして、2013年にさらに西村氏を窮地に追い込む2つの出来事が立て続けに起きる。
2013年8月、西村氏は東京国税局から、2ちゃんねるの広告収入約3.5億円を3年間で受け取りながら、うち約1億円を申告していなかったと指摘されたことが各メディアに報道された(注3)。
報道によると、西村氏が東京プラス社が得た広告等の収入を、タックスヘイブンのペーパーカンパニーであるパケットモンスター社を迂回させて、個人的に広告収入を得ていたと国税局がみなしたということだ。そして、このパケットモンスター社に経営実態がないという判断がされた。国税局もパケットモンスター社の実態について「資金トンネル会社」「資金隠匿プール会社」という警察と同様の判断をしていたということだ。
西村氏がこれまで「2ちゃんねるを譲渡した」という説明はここで完全に崩壊したといっていいだろう。
まず自身が代表取締役で株主である東京プラス社が事実上2ちゃんねるの広告業務を担当して収益を得ていたこと(また『電車男』をはじめとする、2ちゃんねる関連書籍の印税も東京プラス社が受け取っていた契約書も、先の家宅捜索で押収されている)。さらに未来検索ブラジル社も2ちゃんねるビジネスの収益をパケットモンスター社に還流させてきた。これらをあわせれば、とてもではないが「2ちゃんねるを譲渡した」というのは事実とはいえない。
そしてさらに決定的な出来事が続く。「2ちゃんねる乗っ取り」事件である。ここからはジム氏が主役にとってかわる。
「2ちゃんねる乗っ取り」事件
前述してきたように、ジム・ワトキンス氏はもともと広告収入のかわりに、無料でサーバーを提供するというサーバー提供者であった。ジム氏が後に、2ちゃんねるに続き経営権を得た8chanの創設者のフレドリック・ブレンナン氏(第3回以降で詳述)が筆者に語ったところによると、ジム氏は2ちゃんねるは自分がつくったと常々豪語してきたらしい。
ただこれはあながち嘘とも言い切れないところはある。少なくとも共同経営者といえるほどにはなっていたのである。それはサーバーがジム氏のNTテクノロジー社が管理していただけではなく、アダルト掲示板の権利と2ちゃんねるビューアの有料サービスの権利を握っていたからだ。
2019年に最高裁で判決が確定したジム氏と西村氏の2ちゃんねる乗っ取り裁判の記録を探ると、西村氏のビジネスの実態と、なぜジム氏に乗っ取られたかということが手に取るようにわかる。そして、そこで驚くのは2ちゃんねるの杜撰すぎる経営実態である。以下、この2ちゃんねる乗っ取り裁判の記録をたどっていく。

2014年4月、突然西村氏は「2ちゃんねるは、西村博之ないしパケットモンスター社に帰属するもので、サービスとドメインの違法な乗っ取りをされている」という主旨の声明を発した。 ジム氏とNTテクノロジー社が管理する2ちゃんねるのサーバーに西村氏と関係者がアクセスできなくなったのだ。
なぜジム氏は2ちゃんねるを〝乗っ取ろう〟としたか。
直接の原因は前年(2013年)の8月にジム氏の収益源となっていた2ちゃんねるビューアの登録個人情報が大規模流出するという不祥事があったことだ。これにより、ビューアのサービスが停止された。
西村氏はジム氏の管理能力に見切りをつけたのか、ビューアの開発をジム氏でなく、自身が関係する未来検索ブラジル社に切り替えようとした。もしそうなれば、年間1億円以上とされているビューアの収益をジム氏は失う。それにより内輪もめが起きていたのだ。
もともとジム氏は別のビジネスで失敗を続けてきたらしく、西村氏にサーバー代金の増額を要求してい た、とは2ちゃんねる乗っ取り裁判での西村氏の証言だ。そのタイミングで巨大な収益のロストである。これに業を煮やしたジム氏が、西村氏を2ちゃんねるのビジネスから追放して、〝乗っ取ろう〟と考えたというわけだ。
前年の2013年に2ちゃんねるのドメインは、ジム氏が新たにフィリピンに設立したレースクィーン社に移転していた。
2ちゃんねる乗っ取り裁判でのジム氏の証言によれば、シンガポールのペーパーカンパニーであった西村氏のパケットモンスター社に、ドメインを管理する団体から、その法人に運営実態がないとクレームが入ったからだそうだ。こちらもなんともお粗末な話である。ドメイン移転の直前に、前述した麻薬特例法違反の家宅捜索がはいっているため、その累が及ばぬようにしたのかもしれない。
このとき、ジム氏は2ちゃんねるのドメインとサーバーのデータの二つを、実質的にも名義上も手に入れたことになる。
西村氏はサイトが海外の企業が運営しているということであれば、日本の法律は及ばないと豪語してきたが、そのサイトの定義といえば西村氏の論法でいえば、ドメインとサーバーのことだ。この二つともジム氏のものになっていたのだ。この時、2ちゃんねるの経営権をめぐる西村氏の命運が決していたといってもいい。
「2ちゃんねる関係のサービスですけど、手掛けているのはみんなおいらの友達です」『元祖しゃちょう日記』(西村博之 講談社) と、西村氏はかつて言っていた。
実際、盟友の竹中直純氏が東京プラス社の取締役に名をつらね、未来検索ブラジル社は社長を務めている。2ちゃんねるのビジネスは、実は竹中氏が大きく関与していたのだ。そして、こんなことも言っている。
「(仕事の相手は)『一緒に楽しく仕事ができるか』どうかというラインがあるのですが、ここら辺のラインを越えてたら、なんらかの理由でお金をもらえなくても、『まあしょうがない、かなぁ・・・』と諦められる人としか仕事しない」(同書)
このように学生のサークル感覚で友人たちと自由で気ままに生き、それでビジネスで成功していると公言することが西村氏の魅力と皆には映ったのだろう。そして当の本人もそう思い込んでいた。
もちろん「まあしょうがない」と笑って、年間1億円のビジネスをあきらめる人が世のなかにそんなにいるわけはない。ジム氏ももちろんそうは言わなかった。
ジム氏はサーバーにアクセスする権限のパスワードを変更した。乗っ取りはそれで基本的に完了である。あとは広告の収益が西村氏の関係会社に流れないように、広告会社との契約をやりなおせばいいだけだ。
そのための実作業があったからだろう。2014年2月に2ちゃんねるはサーバーダウンでアクセス不能になった・・・ということになった。が、おそらくサイトをジム氏のものとするための作業があったのだろう。西村氏がジム氏によって乗っ取られたと声明を出すのはその2カ月後だ。もちろん、もう遅かった(注4)。
最高裁で敗訴確定
2019年、すでにジム氏の「乗っ取り」が完了してから5年経過して、西村氏側がジム氏側を訴えた2ちゃんねる乗っ取り裁判の判決が最高裁で確定した。西村氏側の敗訴である。
一審ではジム氏が証人として出廷しなかったことがあり西村氏側が勝訴したが、二審でジム氏が出廷すると判決は一転した。判決に決定的な影響したのは、そもそもジム氏との西村氏側に契約書が存在しなかったという呆れるような事実である。
また、2ちゃんねるビューアのトラブルか起きてから追加で払ったサーバー代の前払金は、西村氏とジム氏とチャットで決めたもので、そのパスワードを西村氏が忘れてしまったため、証拠として提出できないとのこと。
ジム氏の裁判での主張は、月額約2万ドルをもらっていたのはサーバー代ではなく広告収益の共同でビジネスしてきた分配金である、ということだ。その金額はどうやって決めたかと問われて、ジム氏は「温泉で西村氏と日本酒を呑みながら決めた」ということだ。
挙句の果てに、裁判でジム氏は、西村氏は2ちゃんねるのスポークスマンにすぎず、最初からプログラミングの技術力もさほど高くなかったし、ウェブサイトの運用にはついていけないレベルだったとし、これに限らず西村氏には2ちゃんねるの運営でやることは特になかったとまで言っている。サイトを事実上運用してきたのはNTテクノロジー社ということだ。
極めつきに、西村氏にサイトの管理実態はないという証拠に、西村氏の著書『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』を提出されて証拠採用されてしまう始末だ。
同書では、「ちょっと前から2ちゃんねるの運営に関して僕のやることはほとんどなかった」と、いかに西村氏が2ちゃんねるの管理運営にタッチしていないかということが書いてある。これに対して西村氏は「その本は私が書いたものではない」という旨の苦しい弁明をしている。確かに同書のあとがきには、あとがき以外はインタビューを第三者が構成したものだ、とある。もちろん同書の著者名は西村博之氏本人であるし、インタビューは実際にされているのは間違いなかろう。
こうしてシンガポールのペーパーカンバニーを経由するビジネスのスキームは、そのままそれを見事に利用されてジム氏の思うように利用されたのだ。
確定した判決では、サーバー代金の前払いとしているお金も契約もなく振り込んだため、単に仲間内の収益の分配の延長とみなすこともできるとされた。
つまりジム氏が主張する2ちゃんねるは共同で経営してきたもので、その収益金の分配をめぐって内輪もめが起きたにすぎないという主張は必ずしも虚偽ではないと認められたということだ。西村氏側の主張が正しく、ジム氏は共同経営者ではないとすることを裏付けるような契約や合意の証拠は存在せず、西村氏側の会計処理でもそのようになされている形跡がない、と判決文は西村氏側の主張をきっぱりとはねつけている。
ところで、この裁判は西村氏が訴え出たものではない。不思議なことに、この裁判の一審判決勝訴の判決を伝える西村氏側のウェブサイトによると、「原告・西村博之」がNTテクノロジー社を訴えたとある。しかし西村氏は原告ではない。わざわざ判決文を画像にしてそのサイトには掲示してあるのだが、わざとだろう、原告の記載箇所は画像から切れている。
そう、原告は法人であり、しかも西村氏が2ちゃんねるを譲渡したと言っていたパケットモンスター社でもない。その会社は代表取締役を西村氏が務める東京プラス社なのである。
2ちゃんねるの所有権を争う裁判の主体が西村氏の所有する東京プラス社ということは、そもそも西村氏は2ちゃんねるを実質的には譲渡などしていなかったと認めるということである。2ちゃんねるの経営主体は、この会社だったのだ。
前述のとおり、西村氏の「2ちゃんねるを譲渡した」というのは、単にシンガポールのペーパーカンパニーにドメインの所有権を移転しただけであって、ビジネスの実態は東京プラスおよび未来検索ブラジルに分散されていたわけである。この3社ともには非公開企業であり資本関係まではうかがい知ることは出来ないが、西村氏が株主と思われる。
2ちゃんねるの書きこみデータのモニタリングをしていたホットリンク社は過去にその契約相手が、西村氏の経営する東京プラス社および未来検索ブラジル社だったことを認めている(2013年12月期 有価証券報告書)。同社の取引先が自民党であることも一時期問題になった。自民党がネット世論対策に2ちゃんねるを利用しているのではないかという疑惑がそれだ。
西村氏は数々の民事裁判で訴訟沙汰になり、その大半が敗訴したにもかかわらず、「お金がないので払えない」「払う意思はなく時効になるのを待つ」と言い放ち、ネット社会のアンチヒーローとしてふるまってきた。
それは巧妙に差し押さえられるような個人名義の収入や財産がなくなるようにしてきたからで、その実体は東京プラス社や未来検索ブラジル社に2ちゃんねるの収益が還流するようにしてあったということである。

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舞台はアメリカへ
なお非公開企業の株式を財産として差し押さえることは、可能ではあるがハードルが極めて高い。その企業の株主名簿やその他の内情を差し押さえる側が調べなければならないし、もしその株式保有状況がわかったとしても、非公開企業の定款には株式譲渡制限というものがあるのが通例で、仮に株を差し押さえることが法的にできても、その株の譲渡を取締役会等が承認しなければ無効と判断されてしまうからだ。なお筆者が確認したところ、東京プラス社と未来検索ブラジル社ともに株式譲渡制限がある。
そうして非公開会社に収益をストックし、たまった内部留保は、損害賠償が時効になり、ほとぼりが冷めた頃に配当のような形式で株主に還流させればよい。こうして、年間数億円とされる2ちゃんねるの収入は東京プラス社を通じて、西村氏が手に入れられるというわけだ。
もちろん東京ブラス社や未来検索ブラジル社から直接この時期に収入を得ていたかもしれない。しかし両社ともに非公開企業であり、そこから実際に西村氏に流れているという確証がなければ、被害者は差し押さえはできない。
裁判での敗訴が続きながら、お金がないので損害賠償が払えないと高笑いをしていた西村氏が、一方でビジネス化していった2ちゃんねるからの収入が日本の人口と同じくらいあるなどという矛盾する発言をしていたのは、こんな背景があるのだ。
そして2009年にはシンガポールのペーパーカンパニーを通じて収入を得る方式も使いはじめた。海外の会社であり、ここからの収入を差し押さえるのは極めて高いハードルだ。
これが「実業家」である西村氏のつくりあげたビジネスのカラクリである。
ところで西村氏はかつてインターネットの法務と知的財産権の専門家である弁護士の牧野和夫氏(2ちゃんねる乗っ取り裁判の西村氏側の弁護士でもある)との共著で次のように述べている。
ひろゆき「オイラは別の疑問があるんですよ。『2ちゃんねる』ってだれなんだろう?って」 牧野「たしかに、2ちゃんねる=管理人とい言い切れませんね」(『2ちゃんねるで学ぶ著作権』牧野和夫・西村博之 アスキー)
2ちゃんねるは、サーバーに蓄積されたデータのことなのか、それともサイトのドメインのことなのか、または商標のことなのか、それとも西村博之本人のことなのか。仮に会社が運営しているとしたら、パケットモンスター社というペーパーカンパニーなのか。ウェブサイトとは誰なのかという不透明性を利用して、様々な脱法ビジネスが繰り広げられたということである。この正解は誰にもわからない。
ただ最高裁までいった2ちゃんねる乗っ取り裁判では、サーバーの所有者でありドメインも保有しているジム氏に軍配があがった。この判例が現在はすべてである。
一方で、同時期に行われていた2ちゃんねるの商標権をめぐる裁判では、西村氏に軍配があがった。そしてジム氏は2ちゃんねるの名称をあっさりと捨て、蓄積された書き込みのデータをそのままにして、ドメインを「5ちゃんねる」と改めた。これが2ちゃんねるが「名称変更」した理由である。
(なお、この商標権の裁判において、これまで西村氏や未来検索ブラジル社が主張していたことと真逆となる「パケットモンスター社に対して2ちゃんねるを譲渡したことはない」との主張が西村氏側からされている。もうウソをついている必要はないからなのだろう。あまりの臆面のなさに、まさに開いた口が塞がらない)
西村氏は、自らがもくろんだ欠陥だらけのスキームを、友人であったはずのジム氏に利用されて、最後は2ちゃんねるから追放されて終わった。自業自得とは、まさにこのことであろう。
以上について、筆者は西村氏および法人としての東京プラス社と未来検索ブラジル社に事実関係の確認を求めたが、その返答はこの記事掲載時点までなかった。
念のため、未来検索ブラジル社と西村氏の自宅といわれる東京プラス社もたずねてみた。
渋谷のはずれにある未来検索ブラジル社の住所のビルのワンフロアには、ビジネスパートナーである竹中氏の関係会社が複数はいっており、ビルの入り口にはそれらの会社の名前は掲示されている。しかし未来検索ブラジル社の名前はない。ビルの中に入ると設置してある郵便受けにはようやく名前を見つけられた。そのオフィスをたずねて来訪の理由をのべると、ここには未来検索ブラジルの人間は誰もいないし、出社の予定もないと、竹中氏の関連会社のスタッフと思しき女性にいわれてしまった。
北赤羽の駅前のマンションにあるはずの東京プラス社は、郵便受けに社名すらなかった。マンションの管理人に聞くと、このマンションには会社はないと言われた。郵便受けには西村という名前は確かにあった。
西村博之氏とジム・ワトキンス氏、ここで日本での勝敗は決したが、匿名掲示板というモンスターの物語はここから本番だ。舞台はアメリカに移り、さらにダークサイドな戦いは続いていく。そしてアメリカのパンドラの箱は、このふたりが開く。

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